高専、知ってます?
第2話 同じクラスに、年上が4人いた
※この連載は事実7割・フィクション3割。
盛るのは私の体験談だけで、高専の制度やルールの話に嘘はありません。
前回のラスト、覚えていますか。 入学初日、 44人のクラスで自己紹介が回ってきたら、 すでに 1年生経験者、 つまり留年生が4人もいた、という話。 「この学校、大丈夫かな」 と頭をよぎったところで終わりました。 今日はその、留年生4人の話です。 まず知らない人向けに、 高専の留年事情を説明しておきます。 普通の高校では、留年はめったに起きません。 文部科学省の調査でも、 全日制高校の留年率は、なんと約0.2%。 ※令和5年度(2023年度)調査 1000人いて、2人いるかどうか。 しかも普通の高校は、 定期テストで赤点を取っても、 追試や補習、提出物の頑張りといった 「救済措置」が手厚く用意されていて、 たいていの生徒は それで救われて進級していきます。 要するに、普通の高校は、 基本的に上げてくれる。 高専は、違います。 まず赤点の基準が高い。 高専の欠点——赤点は、多くの場合60点。 普通の高校なら 30点や40点を切らなければセーフ、 というところを、 高専では「60点に届かなかったら、はい欠点」。 半分どころか、6割取れて、ようやく人並み。 この基準のおかげで、 留年は決して他人事ではない。 むしろ常に足元にある。 だから高専では、留年した先輩が、 新入生の私たちと同じクラスに 「原級留置」で混ざってくることが、 珍しくありません。 15歳の集団の中に、 16歳が当たり前のように座っている。 年上が、同級生。 これが高専の、最初の異世界ポイントです。 なお、これから出てくる4人の名前は仮名です。
ヤンさん(触るな危険、と思っていた)
まず、いちばん最初に目に入ったのが、ヤンさんでした。 とにかく、デカい。 髪は明るく染めていて、自己紹介は淡泊。 声が低いく、目つきが鋭い。 彼の周囲だけ気圧が違いました。 15歳の私は、心のメモ帳に 「ヤンさん:触るな危険」と書き、 最初の1ヶ月、徹底的に避けて過ごしました。 今後、ヤンさんとの絡みが増えていくのですが、 それはまた別のお話。
ツテさん(情報屋)
二人目は、ツテさん。 派手なタイプではないのですが、 やたらと顔が広い。 それもそのはずで、 ツテさんは留年しているぶん、 本来なら一つ上の先輩たちと、 もともと同級生だった人なんです。 だから、上の代とのパイプがある。 過去問はもちろん、 どの教官が、 レポートのどこを見ていて、 どう書けば機嫌よく通してくれるか。 そういう情報が、自然と入ってくる。 しかも本人も、 去年その1年をまるっと経験している。 どの授業のどこが要点か、 どの実技研修のレポートで人が沈むか、 ぜんぶ「去年見てきた」人でした。 そして、実際に沈んだ人でもあります。
ダンマリさん(喋らない、が、できる)
三人目、ダンマリさん。 自己紹介は 「……ダンマリです。よろしく」の、 ひと息で終わりました。 それ以降も、私はこの人の声を 両手で数えられるくらいしか聞いていません。 ただ、誤解しないでほしいのですが、 勉強は、まあまあ、できるんです。 なぜ留年したのかは、誰も知りません。 本人が、説明しないからです。 その沈黙の理由も、 たぶん、ずっと別のお話のまま。
マボロシさん(伝説のほうの存在)
そして四人目、マボロシさん。 ……というか、私はこの人に、 ほとんど会ったことがありません。 入学初日の自己紹介には、たしかにいました。 問題は、その日が、 私がマボロシさんを見たほぼ唯一の日だった、 ということです。 席はあるのに、人がいない。 ごくたまにふらっと現れて、また消える。 そんな人でした。 ここで、高専のいちばん重いルールを。 留年そのものは珍しくない。 でも、同じ学年で2回留年したら、退学です。 1年生を2回やって、 それでも進級できなければ、そこで終わり。 ちゃんと崖がある。 マボロシさんが、 その崖のどこに立っていたのか。 それは——また、別のお話。
もう一組、いた
留年生4人に気を取られていましたが、 あの自己紹介には、 もう一組、気になる人たちがいました。 数名、声がガラガラの男子がいたんです。 まだ4月。 風邪が流行る季節でもないのに、 なぜか喉を潰している。 彼らは、寮生でした。 説明しておくと、 高専の多くには寮があります。 そして寮には、寮の掟がある。 私はのちに、その一端を知って戦慄します。 寮生は、外を歩いているとき、 常に周囲を警戒していなければならない。 なぜなら、 寮生の先輩を見かけたら、 どれだけ遠くても、 聞こえる声で挨拶をしなければならないから。 「どれだけ遠くても」というのが、恐ろしい。 はるか彼方に人影が見えた時点で、 それが寮生なのか、 そもそも先輩なのか、 判別できる距離では、もう、ない。 でも、迷っている暇はない。 判断がつかないなら、とりあえず撃つ。 つまり彼らは、 正体不明の遠くの点に向かって、 全力の「こんちわーっす!」を、 大砲みたいに撃ち込み続けているわけです。
そりゃ、喉も潰れる。 4月の入学式で、 すでに声が枯れていた理由が、これでした。 私は通学組だったので、 この地獄を、外から眺める側でした。 けれど、寮の話はここからが本番です。 その一部始終は、 次回、たっぷりお届けします。
高専について
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あいすさん、こんにちは。
私の娘も高専に通っていますが普通の高校と違い、
親としても驚く事が多いです。
今年2年生ですが同級生が数名留年したと聞き、親子で戦々恐々としています。
続きのお話も楽しみです。
高専に行く学力がなくて、工業高校組だったけど、自分達の学校では、クラス35人くらいで、留年はだいたい2なし3人/組だったね。留年しても扱いは先輩としてみなかったなあ。